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山中記

春。

頭を空っぽにして夢中になれることが、
有難いことだなあと思う。

静かな時間をいただいて、
たとえばそこで自分の沈黙が許されていても、
頭の中はざわざわと波打っていることがある。

自分の半径数メートルをちょっと出た先にある非日常は、
そこに居る誰かの日常。


自分で選んだ小さな日常に、それでもあわあわと暮らす。
ざわついてはすぐ逃避して、気付けば非日常にまぎれこんでいる。
玄関のドアを開けて一歩、二歩。日常に帰る。
ハレとケとの、はたしてどっちが自分にとっての常なのか、と
考えてはまたこんがらがる。


 * * *


遮断の冬。
長くて、内向き放題だったこの冬の宿題をそのまま抱えて、
静かに雪が降るのを眺める只見線のAM6:40。
「ご縁会」、鮫川村へ。
17日はまさかの一面雪景色になった。

朝3時起床。
成願寺、雨。
去年何度か走った山越えの運転ルートを再確認。
・・・、まだ「冬季閉鎖中」であることを初めて確認。
福島は雪が降り続いているということも合わせて知る。
こたつで一人うめいたりなどし、
自分の置かれた状況を理解するのに数十分費やす。


電車移動にあわてて差し替え。
暴走の朝5時。
県境の入広瀬駅に車を置いて乗るはずの電車に、
なぜか入広瀬の道路を運転中に追い越される。
自分の置かれている状況を理解するのにさらに数分。

計画、なおも差し替え。
入広瀬で乗り捨てるはずの車で、入広瀬の道を抜ける。
雪の上をノーマルタイヤで走り、無謀に電車を追い越し、
次の大白川の駅で奇跡的乗車。
大胆と無謀は違うなと感じた6:00。
2両編成の前の車両に無事座り、新聞など広げる。
とうとう酒は買えず。


同じ大白川で近くの集落の人たちが乗り込む。
柳津に温泉旅行に行くらしい。

すみやかにビール焼酎日本酒、漬物イカ珍味その他のかぐわしい香りと
15人くらいのドリフなみの談笑とで1両貸切状態に包まれる。
奇跡的乗車からこの間、ものの5分。かぐわしく、狂おしい。
何にせよこっちは酒を切らしてる。

あきらめて新聞に目をやる。
なぜだか、ご宴会中の皆さんの視線が気になるなあと思った瞬間、
一人の婦人が近寄ってきて、
「おめはマンジじゃねえのか?」
と、たずねられる。

聞けばどうも、集落のマンジという屋号の家のせがれと瓜二つらしい。
とっさのことで状況がよく呑み込めず、
おそらく、親などには見せたことのない表情で愛想笑いなどしてみる。
次の次の次の駅あたりまで、
まだ見ぬ、そして一生会うこともないだろうマンジのせがれの人となりに想いをはせる。

その後、斜向かいに座っていたじいちゃんに満面の笑みでイカの姿フライをなぜか手渡される。
イカの姿フライ、水分持っていくねぇ。

柳津で無事にご宴会の皆さんを見送り、あらためて俺はご縁会へ。
会津若松駅で月見うどんを立ち食い、
新潟から雪をくぐり抜けてきた参加メンバーの車に便乗。
快適に、道案内などを間違えつつ、当然のように遅れて鮫川へと向かう。


満開の桜の木に降り積もった雪。
白の地に立つ桜色。
花見兼雪見。
一生のうちでもなかなかお目にかかれない光景にしばらく見とれる。

鮫川村でのいろいろ。
なつかしい再会あり、初対面で人見知りしたりなどもするも、
手作り料理と酒がうまかった。
新婚祝いのオーダーメイドバケツも素晴らしかった。
(鳥くん、結婚おめでとう)

鮫川で見聞きしたもの、触れたもの、相変わらず素敵だった。
「農業体験の施設」に所属する自分でありながら、
農業体験をする意味って何だろう?と大きく悩んだこの冬。
対象は大衆か、
使う素材を遡って考えること、
環境にとって永く持続可能な取り組みだろうか、
どこにたどりつくんだろう、何につながるんだろう、
一緒に働きたいのはどういう人なのか。

それなら自分はどう生活をしていきたいのか。
あらためてふりだしに戻って、
自分がまず農業を楽しめていかないとなあといまさら気付く。
自分の尻尾を噛みつけながら、ぐるぐると堂々巡りの冬数カ月。
自分にとっての面白いって何だろう。
そんなこんなで鮫川。

飲んでは話して、話しては飲んで。
酒っぽい頭で朝風呂につかったり、
薪ストーブに当たって管理人さんの話を聞いたり、
土の見えてきた田んぼを眺めたり、
鍬だけでする稲の株起こしを体験したりしながら、
後ろを向いたり、前を向いたりの自問自答。

考え過ぎだからいけないんだろうな。
でも直感の先で生きるにはあまりに自活力が足りない。

信じること。
素直にただ信じること。

帰り道。
棚倉駅まで送ってもらい、乗るはずだった電車が、
なぜか30分くらい遅れて、まさかの会津若松一泊。
それはそれで馬刺しをおいしく食べて地酒を呑んで寝る。
翌朝、めかぶうどんを立ち食い、只見線に乗る。

非日常から日常への復路。
快晴。
県境の雪はとうぶん消えそうにない。


 * * *


戻って長岡。
お天道様の下でくるくる回るこのお仕事。
晴れもあれば、くもりもあれば、雨もある。
わからぬことだらけの風土のその中の、自分の日常/非日常。
スマートに生きられるなんてことはやっぱりないもんだなあと頭をかく。

闘わず、と決めたらそこからできるだけ逃げず、もう少しだけ弱らず。
緩く、温く。
ゆるく、ぬるく。

あ、春。
by 907011 | 2010-04-29 06:57 | Trackback