往路。
9月11日
深夜に目が覚める。
遠足前の子ども状態でゴソゴソと支度をしたり読み物をしたり、
ギリギリまで道中の温泉を入念に調べあげ、「カンペキ」などと薄ら笑いを浮かべていたら、
外も明るくなってきたので慌てて5時前に出発。
眠くなったらまあその辺りで寝よう。
入広瀬を抜け、八十里越え。
風が秋。
田子倉ダムの水面を覆うモヤと朝陽。
夜明けの瞬間でもありながら、しかし目に映るのは水の色でも山の緑でもなく、ただモノクロの静かな世界。
しばらくの間、圧倒される。
彩とりどりの景色も豪華だけど、
繰り返しを繰り返して、
目に、耳に、口に、
最後に残るものはおそらく、0か1に近いモノだと思う。
ジュースよりはお茶、
で、お茶も水にはとうとうかなわないなあとときどきはっと思う。
そういえば味噌汁の具材も2種類までが善い。
と最後はお味噌とお湯のことなど考えながら車を進めた。
家も借りたことだし、今年の冬は手前味噌をつくろう。
ニンゲンは風景に見とれるのも早いが、目移りもまた早い。
水上にかかった雲が龍に見えた。
辰年乙女座のナルシシズムだろうか。
満たせ、自己愛。
静かな時間/空間に包まれて考え事いろいろ。
感受性がヨロコブ。
その感覚自体が久しぶり。
旅路、きわめて順調。
前夜に初めて?マジメに道路(と温泉)を調べてみたら、
これまでが意外に遠回りだったことに気付いてショックだったが、
それはそれで善い道程だった。
でも、毎回遅刻王。略して遅王。
そんな遅王返上の旅も、今回は最短っぽい。
「桧枝岐温泉こっちこっち↓」の案内に心惹かれつつも振り返らずに南会津を抜けて、甲子峠を目指す。
道路沿いに延々と連なる南郷のトマト売りがすごかった。
完熟トマト好きの目には、きっと遊郭のような誘惑に満ちた眺めなのだろう。
下郷の道の駅で最初のトイレ休憩。
この道の駅は好感が持てるので行くたびにお土産などを見て一周する。
遅王は遅いけれども忙しい。
遅いがゆえに忙しい。
* * *
南会津から白河へ抜ける甲子峠。
トンネルが4本くらい続くその中の、
トンネルとトンネルの間のわずかな隙間に入口が隠れている、甲子温泉へ。
山中の渓流沿いにある一軒宿大黒屋さん630円。
綺麗な内風呂・露天と、
いったん服を着て長い階段を降り、渓流にかかる橋を渡ってからの岩風呂と混浴露天風呂。
手前にある内風呂に脱衣所から一歩足を踏み入れた瞬間、
裸の(当たり前か)男性が、でっかいタンクに満面の笑みで温泉を汲んでいた。
まだお湯につかってないのに、お湯と俺とのすべてはこれからなのに、
その前にこちらがたじろぐほどの満面の笑みを浴びて、返礼に小さく笑み返す。
よく見たら巨大なタンクが15本以上はある。
「従業員?」「業者?」「傷ついた動物保護の人?」「温泉を浴びる性癖の人?」etc.
多面体のサイコロが頭のなかで回り続け、
小堺さんの音楽が脳内再生され、ライオンに結論を急かされる。
いずれにせよこれは素人の仕事ではないな、とさっき返した笑みをやめて口元をきりりと引き締めなおし、
露天風呂に移り、彼の生き方を少しだけ想像してみるが、すぐに飽き、
木の葉の緑が綺麗だったのでほおっておく。
岩風呂がすごく良かった。
甲子温泉は至徳年間(1384年)州安和尚によって発見された、とパンフレットより。
岩風呂は建物も、風呂内にある脱衣籠置き場もひなびていてかなり善い。
風呂の中は深く、立っての入浴。
中央になぜか子宝の石があり、裸の(当たり前か)おっちゃんがときどき座っていた。
俺も負けじと誰もいなくなった頃合いを見計らって、旅の無事と子宝を祈り平泳ぎ。
外の露店は混浴だったが、のぞいたら完全にプールで、
セメントに塗られた鮮やかな水色が、我が家の外壁と同じ色だったので入らず。
渓流の上、橋を通り抜けていく風が気持ち良い。
温泉で平泳ぎができることはその旅の充実度をはかる私的バロメーターと言える。
逆に言えば、興に乗りご満悦の際に、ワタシは温泉で平泳ぐ。
早くも連休いただいた分の収穫を得たので、あとは会うものすべて儲けもの。
* * *
その後、やっぱり最後は道を間違えながらも無事に集合場所の道の駅塙に到着。
過去4回、すべて遅刻していたのに今回はなんと一番乗り。
ひじょうに気分が善い。
「みんな遅ぇなあー」とベンチで腕組みして待ち構えるイメトレなどする。
早王である。
なおもまだ一時間くらい時間があるので近場の温泉パンフレットを探していたら、
見覚えのあるオレンジつなぎの坊主頭がいて、さらに連れが二人。
まったく一番乗りではなかった。
ショックを引きづりながら、集合までベンチで農業研修の話などを聞く。
早王、返上。
鮫川での集まり「ご縁会」。
最初に集まったのがちょうど一年前。
素直な人たちが不思議と集まる、好きな時間。
続けて参加できる人も初めての人も、
皆それぞれにいろんなナニガシカを抱えながら、
それでもあの山奥の小さな村に集まってくるのは、
幹事いなこさん自身が素直に悩んで学んで暮らしているからなんだと見ていて思う。
このたびは絵描きのチヒロックが音楽たちとともにやってきて、
バーベキューしながらの手づくり音楽祭。
鹿角平キャンプ場は天文台のすぐ真下にあって、
酒飲みながら、寝っ転がって星空を見ながら、音楽。
気持ち良すぎてうとうとしながら聞き、目を開けると星が近い。
この夜は結局2時まで飲んで話して笑ってた。
そういえば起きたのも2時くらい。24時間営業。
大量の自家野菜と日本酒「大那」を持って駆け付けてくれた、
那須の農家さんにぴたりと付いて話しが聴けたのもひじょうに善かった。
大きなヒトほど、ニコニコニコニコと笑っている。
みんな素直だなあと感心する。
明朝5時起床。
眠くなったらまあその場で寝よう。
雨降りのため予定されていた草刈は中止。
火をおこしてとりとめのない話しなどし、朝ごはん食べて終了。
言葉はいつも後付けでしかないのだけど、
もっと、ときどきは外のことを見て聴いて触れて、
その上で節操無くも、じぶんの内をつくっていこうと思い直す。
星空の下でよく食べ、よく酒を飲み、よく笑い合う。
都合よく忘れること、じぶんを肯定し直すこと。
私的リセットのための、上書きのための移動や非日常。
じぶんをそれでも前に進めるための立ち止まりの時間と空間。
非日常に居て、日常を想う。
やっぱり当面の常なる生活も頭から離れず。
結局いつも気が多く、目の前だけを見てはいない。
でも、外に出てこその、自分の顔、声、姿を知る。
俺はもっと努力しなくてはいけない。
深夜に目が覚める。
遠足前の子ども状態でゴソゴソと支度をしたり読み物をしたり、
ギリギリまで道中の温泉を入念に調べあげ、「カンペキ」などと薄ら笑いを浮かべていたら、
外も明るくなってきたので慌てて5時前に出発。
眠くなったらまあその辺りで寝よう。
入広瀬を抜け、八十里越え。
風が秋。
田子倉ダムの水面を覆うモヤと朝陽。
夜明けの瞬間でもありながら、しかし目に映るのは水の色でも山の緑でもなく、ただモノクロの静かな世界。
しばらくの間、圧倒される。
彩とりどりの景色も豪華だけど、
繰り返しを繰り返して、
目に、耳に、口に、
最後に残るものはおそらく、0か1に近いモノだと思う。
ジュースよりはお茶、
で、お茶も水にはとうとうかなわないなあとときどきはっと思う。
そういえば味噌汁の具材も2種類までが善い。
と最後はお味噌とお湯のことなど考えながら車を進めた。
家も借りたことだし、今年の冬は手前味噌をつくろう。
ニンゲンは風景に見とれるのも早いが、目移りもまた早い。
水上にかかった雲が龍に見えた。
辰年乙女座のナルシシズムだろうか。
満たせ、自己愛。
静かな時間/空間に包まれて考え事いろいろ。
感受性がヨロコブ。
その感覚自体が久しぶり。
旅路、きわめて順調。
前夜に初めて?マジメに道路(と温泉)を調べてみたら、
これまでが意外に遠回りだったことに気付いてショックだったが、
それはそれで善い道程だった。
でも、毎回遅刻王。略して遅王。
そんな遅王返上の旅も、今回は最短っぽい。
「桧枝岐温泉こっちこっち↓」の案内に心惹かれつつも振り返らずに南会津を抜けて、甲子峠を目指す。
道路沿いに延々と連なる南郷のトマト売りがすごかった。
完熟トマト好きの目には、きっと遊郭のような誘惑に満ちた眺めなのだろう。
下郷の道の駅で最初のトイレ休憩。
この道の駅は好感が持てるので行くたびにお土産などを見て一周する。
遅王は遅いけれども忙しい。
遅いがゆえに忙しい。
* * *
南会津から白河へ抜ける甲子峠。
トンネルが4本くらい続くその中の、
トンネルとトンネルの間のわずかな隙間に入口が隠れている、甲子温泉へ。
山中の渓流沿いにある一軒宿大黒屋さん630円。
綺麗な内風呂・露天と、
いったん服を着て長い階段を降り、渓流にかかる橋を渡ってからの岩風呂と混浴露天風呂。
手前にある内風呂に脱衣所から一歩足を踏み入れた瞬間、
裸の(当たり前か)男性が、でっかいタンクに満面の笑みで温泉を汲んでいた。
まだお湯につかってないのに、お湯と俺とのすべてはこれからなのに、
その前にこちらがたじろぐほどの満面の笑みを浴びて、返礼に小さく笑み返す。
よく見たら巨大なタンクが15本以上はある。
「従業員?」「業者?」「傷ついた動物保護の人?」「温泉を浴びる性癖の人?」etc.
多面体のサイコロが頭のなかで回り続け、
小堺さんの音楽が脳内再生され、ライオンに結論を急かされる。
いずれにせよこれは素人の仕事ではないな、とさっき返した笑みをやめて口元をきりりと引き締めなおし、
露天風呂に移り、彼の生き方を少しだけ想像してみるが、すぐに飽き、
木の葉の緑が綺麗だったのでほおっておく。
岩風呂がすごく良かった。
甲子温泉は至徳年間(1384年)州安和尚によって発見された、とパンフレットより。
岩風呂は建物も、風呂内にある脱衣籠置き場もひなびていてかなり善い。
風呂の中は深く、立っての入浴。
中央になぜか子宝の石があり、裸の(当たり前か)おっちゃんがときどき座っていた。
俺も負けじと誰もいなくなった頃合いを見計らって、旅の無事と子宝を祈り平泳ぎ。
外の露店は混浴だったが、のぞいたら完全にプールで、
セメントに塗られた鮮やかな水色が、我が家の外壁と同じ色だったので入らず。
渓流の上、橋を通り抜けていく風が気持ち良い。
温泉で平泳ぎができることはその旅の充実度をはかる私的バロメーターと言える。
逆に言えば、興に乗りご満悦の際に、ワタシは温泉で平泳ぐ。
早くも連休いただいた分の収穫を得たので、あとは会うものすべて儲けもの。
* * *
その後、やっぱり最後は道を間違えながらも無事に集合場所の道の駅塙に到着。
過去4回、すべて遅刻していたのに今回はなんと一番乗り。
ひじょうに気分が善い。
「みんな遅ぇなあー」とベンチで腕組みして待ち構えるイメトレなどする。
早王である。
なおもまだ一時間くらい時間があるので近場の温泉パンフレットを探していたら、
見覚えのあるオレンジつなぎの坊主頭がいて、さらに連れが二人。
まったく一番乗りではなかった。
ショックを引きづりながら、集合までベンチで農業研修の話などを聞く。
早王、返上。
鮫川での集まり「ご縁会」。
最初に集まったのがちょうど一年前。
素直な人たちが不思議と集まる、好きな時間。
続けて参加できる人も初めての人も、
皆それぞれにいろんなナニガシカを抱えながら、
それでもあの山奥の小さな村に集まってくるのは、
幹事いなこさん自身が素直に悩んで学んで暮らしているからなんだと見ていて思う。
このたびは絵描きのチヒロックが音楽たちとともにやってきて、
バーベキューしながらの手づくり音楽祭。
鹿角平キャンプ場は天文台のすぐ真下にあって、
酒飲みながら、寝っ転がって星空を見ながら、音楽。
気持ち良すぎてうとうとしながら聞き、目を開けると星が近い。
この夜は結局2時まで飲んで話して笑ってた。
そういえば起きたのも2時くらい。24時間営業。
大量の自家野菜と日本酒「大那」を持って駆け付けてくれた、
那須の農家さんにぴたりと付いて話しが聴けたのもひじょうに善かった。
大きなヒトほど、ニコニコニコニコと笑っている。
みんな素直だなあと感心する。
明朝5時起床。
眠くなったらまあその場で寝よう。
雨降りのため予定されていた草刈は中止。
火をおこしてとりとめのない話しなどし、朝ごはん食べて終了。
言葉はいつも後付けでしかないのだけど、
もっと、ときどきは外のことを見て聴いて触れて、
その上で節操無くも、じぶんの内をつくっていこうと思い直す。
星空の下でよく食べ、よく酒を飲み、よく笑い合う。
都合よく忘れること、じぶんを肯定し直すこと。
私的リセットのための、上書きのための移動や非日常。
じぶんをそれでも前に進めるための立ち止まりの時間と空間。
非日常に居て、日常を想う。
やっぱり当面の常なる生活も頭から離れず。
結局いつも気が多く、目の前だけを見てはいない。
でも、外に出てこその、自分の顔、声、姿を知る。
俺はもっと努力しなくてはいけない。
by 907011
| 2010-09-19 04:48
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