山中記

余花。

夕方。
田から上がってバタリの下にバイクを置けば、
目の前に古屋敷の桑の木が一本生えている。

桑の実が色付いて以降、まっすぐ家に帰らず、
枝をぐいっと持ち曲げて、ありったけの実をむさぼりかじってから帰る19時前。
先週からずっと指先がどす黒い。

一番近い枝なら背伸びして顔を上げ、口を開けて直にかじってみる。
枝一本を下げながら一粒ずつかじっている光景は
おそらく熊のようだと我が事ながら思う。
桑いちごは樹の下でつまむのがもっともうまい。
枝豆やトウキビを採ってすぐ茹でるみたいな話だ、とも思う。

逆の例でいえば、
ある日、身体に突発的に不調が起こって、医者まで駆け込んだのに、
いざ医者を前にして椅子に座ったら、本来(?)の不調が出てきてくれない、みたいな話だとも思った。
(「センセイ、違うんです。さっきまでたしかに変だったんです。調子が悪いんです。
 いや、調子が悪くなくなっただけであって、さっきはちゃんと変だったんです」
 と支離滅裂な言い訳をしたくなる)

そんなことを思い浮かべつつ、黙々と食う。
黒く甘い実よりも、赤黒い酸味と甘みの混じっている方が魅かれる。
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また黙々とかじり、ふと思う。
俺の前世、蚕か何かだったんではなかろうかと。
(これが寒くなってくれば、ポン酢が好き過ぎて、
前世、味ポンの蓋か何かだったんではなかろうかと思う。)

 * * *

6月。
田の畔と中で蛇に出会う数が徐々に増えてきた。
あと、田植えと田の草取りが少しと、
今週から秋まで田の草刈りがどーんと秋まで続く。

いつ田植えしようか、無農薬田の水を最高位に張って草取りに入らねばとぐるぐる水見。
最近、畦で会う蛇が逃げようとしない。
いったん田の中にちゃぽんと入るものの、
なぜか思い出したようにニンゲンの顔を見ながら舌を出しながら
進路をぐいっと曲げ、見事な高速で足元に向かってくる。
蛇が何より苦手な身にはこの衝撃はたまらない。

「蛇のやつが逃げてくれない」と嘆きながら、
今夕もワタシは熊のようになって桑の実をむさぼる。

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by 907011 | 2015-06-05 04:56