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山中記

ぐるぐるぐる。

高校の美術(音楽と美術と二択だった)の担当がクロキ先生という若い先生だった。

一応の県内の進学校らしい、口うるさかったり、小難しい感じだったり、
いわゆる距離感の難しい大人な先生ばかりのなかで、
私的には異例の言葉のチョイスをされる、謎の気質も含めて魅惑的な先生で、
美術の授業だけは特別な時間なように感じられた。
美術室は進学勉強と違うことを見たり、聞いたり、考えたりする空間に感じた。
クロキ先生の一言目が、
「絵は下手でもなんでもいいです。上手とか、そういうものでもないんです。」だった。

 *

当初は異例な気質過ぎて変人と思っていたけど、
そういう考えさせられる時間と共に、
むしろ卒業してから、「ああいう独創的な人だから美術の先生だったんだなあ」
と感心したりする。自分の偏見の一つでもありますが。

美術を選択してしまったものの、
自由課題と言われて、2週(2回程度か)経てど何の発想もなく、
何を書いてもいいかわからなくて、
白紙のままで困ってしまって、ちょっと廊下を散策(それも自由だった)したりなどしていたら、
クロキ先生が来て、「ナオキ、いま何考えてる。書けないからつまんないだろ?」と言われ、
俺も率直に、
「授業だがらみんなみでえに何か書かねばど思うども、
 絵の考えみだいなのは俺は何も出でこね。なんか、ぐるぐるしてばっかりだ。」
というと、先生は
「いいねがー、その”ぐるぐる”って。別に絵じゃねくていいんだがら」。

ということで、俺は黄色い画用紙に「ぐる」という字を
左下の端から「ぐるぐる」と書き続けて、右下隅でちょこんと左折して、
右上隅に向かって「ぐるぐるぐる」というのを繰り返して、
一周したら内側の2周目を繰り返して、
真ん中でゴールするという「ぐるぐる」という問題作を無事に書き上げた。
まったく思いつかないままの困った状況から逃げ切れたという安堵感と、
「言葉でもって許してもらえる大人の世界っつうのがあるんだな。」
というようなことを、帰りの廊下で独りじわじわ感じた。

美術の時間が1年生だけだったか、3年生まであったのか覚えてもいないけど、
あのとき廊下で、「いいねが~、ぐるぐるで全部埋めれば」と言ってもらった日のことだけは、
社会人になっても中年になっても思い出す、稀有な先生だった。

それから20うん年経っても、一向に「ぐるぐる」し続けている。
あの白紙とペン持って廊下をぶらぶらした気分は今もそれほど変わってない。
必要な時間だったと想う。










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by 907011 | 2019-01-09 06:19 | Trackback | Comments(2)
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Commented by kotaro_koyama at 2019-01-09 06:49
素晴らしい先生!
Commented by 907011 at 2019-01-10 04:41
kotaro_koyamaさま

ありがとうございます。
と、俺が言うのは変なのですが、
若いのに表現手段が絶妙で面白い先生でした。

ブログ拝見させてもらいました。
タイトル見て「すげえ。」とまずやられました。
イタリアって気温低いんですね。
またのぞかせてもらいます。